VERBA VOLANT, SCRIPTA MANENT.

如星的茶葉暮らし

■ 06月中旬 ■

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酒の一滴は血の一滴。茶の一滴は心の一滴。ネタの一滴は人生の発露。


 

【2007-06-10-日】

夏コミ当選のお知らせ

はてダの速報ではお知らせしておりましたが、今年も幸いにして夏コミ通りました。3日目東オ-13b「神慮の機械」にてお待ち申し上げております。

なお以前の申込日記でも触れましたが、今夏はFateジャンルへ回帰いたします。インフォメページも若干更新いたしましたので、今後の新刊情報についてはそちらをご参照くださいませ。切嗣とバゼット、封印執行者の代替わりと、それぞれ未来を託す者、絶望を残す者を描く「Fate/Zero Squared」、乞うご期待。……なおカットでは「Fate/Zero2」と記載してたのですが、余りにFate/Zero本編と紛らわしいので「Squared」と開かせていただきました。

サンクリ本落としました……

えー。そして申し訳ないお知らせも一つ。今週末サンクリ36にて発行を予定しておりましたTH2ささら本最終巻、落ちました……。ヴェネツィア往復で原稿執筆するなどギリギリまで粘ったのですが、印刷可能限界日を超えてしまい断念。ホントすみません。

なお今週末はプレビュー本としてコピー誌を持ち込む予定です。また完成版については夏コミにて初出を予定、その他オンリーなどイベントを探してみる予定です。次回サンクリだと10月になってしまいますしね。

ちなみに表紙入稿完了してから本文落としたのは初めてです……orz

今日の一滴="−−−−" (2007/06/10)

【2007-06-12-火】

マルドゥック・ヴェロシティ:クライマックスの妙

今更ながら、冲方丁「マルドゥック・ヴェロシティ」について少し書こうと思う。

自分がゴリゴリと小説を書くときって、自分が過去に感銘を受けた作品を色々拾い読みしたりする。自分の欲しい物語のトーンをそこに見出そうとするというか。平野耕太曰くの燃費の悪いオタクエンジンには一応日頃からの詰め込みがあるはずなんだけど、そのごった煮に指向性を与えるようなモノを眺めたく(読むほどではない)なるのよねぇ。

前置きはこの辺りにして、○舌。前作読者には絶対に薦めたい作品だが、正直物語の出来としては前作に及ばないとは思う。今回導入された特異な文体は、読み始め頃の懸念とは裏腹に複雑な挙動をする彼らの動きを見事に表現してるし、眠らない男の日の数え方、クリストファー、そして信者たるドクターへと引き継がれる成果たち──とても魅力的な小説ではあるんだけど。どうも、全体として説明台詞で強引に物語を進めてしまうような傾向があり、特にラストは「OK俺が全て語って聞かせやしょう」で終わるのがなんともつまらない。広げすぎた網の目を、頁数の都合で一人に語らせますよというアレをやられると俺はとても萎えてしまうので。

さておき。それは置いても、本作のボイルドは魅力的だ。そして本作単体のストーリーテリングは微妙でも、ボイルドにまつわる物語として捉えれば、これは見事に前作とのクロスを果たしている。本作ヴェロシティには、実はクライマックスがない。ウフコックの濫用はその始まりに過ぎないし、最後のカトルカールとの決着は幕間劇でしかない。ラストシーンは文字通りのエピローグであって山場ではない。この作品のクライマックスは、前作スクランブルにおけるバロットとの最終戦シーンにこそあるのだと思う。

逆に、スクランブルにおいてあの戦闘シーンはそれこそクライマックスとエピローグを結ぶ幕間劇に近い。バロットの成長……というには生温い、覚醒と生存の物語であるスクランブルのクライマックスはアシュレイとの決着の瞬間に他ならず、ボイルドとの戦闘はその結果のデモンストレーションに過ぎないとすら言ってよい。

だが、そのバロットにとっての間奏こそは、ヴェロシティで全てを捨てたボイルドの行動が結実するシーンでもあった。ヴェロシティを読み終えたら、すぐさまスクランブルをカジノシーン直後辺りからでも読み返してみてほしい。ヴェロシティでは物足りなかったクライマックス、スクランブルでは大した意味を感じなかったあのシーンが、強烈なインパクトを持って読者を待ってることに気づくだろう。このシナリオ構成には参ったね。多少ボイルドの行動や性格に両作の間で不一致があるようには思うけど、それでもスクランブル側のラストバトルはヴェロシティの為にあったとしか思えない描き方だ。あーちくしょう。巧いなぁ。

そして、ラストシーン──これはヴェロシティとスクランブル双方にとっての幕切れなのだろう。バロットとウフコックが歩き出し、ボイルドが去ったマルドゥック・シティに捧げられるエンディングロール。俺の脳裏にはビリー・ジョエルの“Lullabye (Goodnight My Angel)”辺りがずっと流れていた。

それは子守歌/娘への/娘からの──そして見送った全ての死者/生者への鎮魂歌。

Everybody has a breaking point.

誰にでも破壊点、つまり「へし折れる瞬間」というのがあって、しかもそこにはほとんど予兆なんてモノはなく、折れるかも折れるかもなんて考える暇もなく瞬間的に「は?」という勢いで折れる。ゴキリと。

よくこういう状況を目の当たりにした外野ってのは「普通そうに見えてたけど色々溜め込んでたのか」なんていう微妙にずれた感想を抱きがちだけど、時にへし折れた当人ですらベキボキと自分が折れていく様をスローモーションで眺めながら「へ? 何で?」とか思ってたりすることもある。

要するに、どんな予兆も見逃さない、なんてのは本人にすら困難だってことだ。結局真面目にやるなら定期的にメンタルの非破壊検査でも掛けてやるしかない。人一人を救う、ましてや予め救うというのはそれぐらい難しい、というよりは面倒なことなんだ。当の本人にとってもね。

今日の一滴="−−−−" (2007/06/12)

【2007-06-13-水】

ARIA Veneziana発掘行

ヴェネツィア雑記シリーズ一発目(一応概況は先に書いたけどさ)にいきなりこれを持ってくるのもどうかと思うが、コレ。今回のヴェネツィアはARIAを読み出してから初めての渡航だったので、ほーだヴェネツィアでイタリア語版ARIAを買ってくるなんざシャレが効いてていいじゃねーかと思い立ったが運のツキでござんした。

いや何が運のツキって、売ってないんですよ、これが。噂ではイタリアじゃ日本の漫画はMANGAで通じるだの、イタリア人にはド根性ガエルで育った世代がいるだの、イタリアオタは欧州に吹き荒れた日本アニメ迫害の時代も強く生き延びただの聞いてたし、如星自身2年前のヴェネツィア・ビエンナーレのオタク展を現地で見てきたクチだし。日本の漫画なんざそこらの書店で売ってんじゃねーの、ひょいと?……とか軽く考えてたワケである。

果たして、これは観光芸術学術都市ヴェネツィアという特殊立地だからなのか、巨大書店とか望むべくも無いお土地柄だからか。それともイタリアのオタクは本家と違ってキチンと慎み深さを忘れないのか。ともあれ、街中の本屋を端から当たってみるがMANGA自体欠片も置いてない。ばかりか、店の人にMANGAはないかと聞いてもさっぱり知らないと言う。あの本屋ならあるんでは、いやここならどうだと聞いて行ってみてもない。大学もあり学生の多いDorsoduro辺りならどうだと踏んだんだけど、あったのは「北斎に始まる日本の漫画史」みたいな学術書のみ。結構書物好きっぽい兄ちゃんに聞いてみたんだけどなぁ……。

と、数日目にふと思い出したのが、初日に立ち寄った本屋というか古書屋。店内は平積みの本ばかり、軒先に観光客向けのヴェネ本や古地図のポスターを並べてる店が、宿泊先近くの聖マリア・フォルモーザ広場付近にあったのを思い出す。そこでは小さな絵葉書を買っており、漫画らしきものが無かったのは覚えているが……お目当てはその店のオヤジだ。あの店内の有様、あの雰囲気。奴は絶対にビブリオマニアに違いない。早速足を向け、まずはその平積みの中に漫画は無いか聞いてみると……やはり。1冊だけ、多分本人のコレクションらしきモノを見せてくれた。日本人たる俺のよく知らない作品ではあったが、確かに漫画。早速何処で手に入れたのか、もっとある店は無いか聞いてみたところ、Cannaregio地区にある小さなマニア店を教えてくれた。案の定、である:)

かくて遂に発見されたのが、上の3冊なのだ。シリーズが揃ってるわけでもなく、何やら箱にごそっとバラけて入ってはいたものの、その他ラインナップは確かに新しい。ナルトやワンピも確かにある。OTAKU CLUBって何のこっちゃと思えばgenshikenである。なんか懐かしいぴたテンとかもあるし。……正直、ヴェネツィア本島のARIA在庫全てを日本人が買っていってしまう事に気が引けないでもなかったが、ええい店長また仕入れて頂戴。土産用のその他ちょっとした漫画と合わせてゲットしたのでありました。

ちなみに以前lapis氏から英語版2巻を貰ってて知ってはいたのだけど、イタリア語版もちゃんと擬音や吹出し外の呟きなんかも翻訳描き換えされている。また定番台詞「恥ずかしい台詞禁止っ!」は、状況に応じて異なる訳が当たってる模様。左の写真のコマでは「誉めすぎ禁止!」みたいなニュアンスだし、別のコマでは「芝居じみた台詞禁止!」と原義(?)に近い台詞を使ってたり。VIETATO, VIETATO. いやはや、思わぬARIA迷宮紀行になってもーた。でも楽しっ。

帰国後、自分で管理してるmixiのヴェネコミュに現地住人さんがいるんだから聞いてみればよかったんでないの、と思い出したのは以下略。

今日の一滴="−−−−" (2007/06/13)

【2007-06-16-土】

サンクリ出撃

告知が遅くなりましたが、明日のサンクリ36Dホール・ツ19a「神慮の機械」にて皆様のお越しをお待ちいたしております。なお新刊オフセを落としてしまった旨を先日も告知させていただきましたが、なんとかコピー本としてお見せできる部分はまとめてみました。

というわけで、ToHeart2小説・夏色シリーズ最終巻「葉桜に燈す夏への送り火」、その暫定版を明日はお届けできそうです。あくまでプレビュー版ですがせめて空気だけでもお伝えできれば幸いです。また他イベントとは違い、極力如星本人は自スペにいるようにしますので(離席していても2-30分で戻る予定です)、一発文句でもとお考えの方は是非お越しくださいませ:)

今日の一滴="−−−−" (2007/06/16)

【2007-06-17-日】

サンクリお疲れ様でした&コピ本雑感

本日のサンクリ36に参加された皆様、お疲れ様でした。また当スペースに足を向けてくださった全ての方に心から感謝を。わざわざ差し入れなどもいただいてしまい、ああイベントっていいなぁとかまたも素直に思ってしまったり:)

なお「神慮の機械」としては数年ぶりのコピ本配布になりましたが、気軽に読めるボリュームであり、またシリーズあらすじなども入っていることで、却って初めて当スペースにお越しくださった方にも「如星の小説お試し版」としてお勧めできた面もありました。……や、本来完全版が出るはずだった事への言い訳にはなりませんが、これは逆に面白い試みかな、とも。元々物書きの同人誌は

という二重苦を抱えており、如星のほうでも前者については「Web小説である程度判断していただく」「POPにあらすじや登場キャラ、傾向を書く」という配慮はなるべくしてきてはいたのですが、当然十分な情報量とは言えません。後者についてはコスト体質上いかんともし難いですし。

たまに同人誌製作を知らない方にある誤解なんですが、掛かったページ数で決まる本文金額は漫画本でも小説本でも基本的に一緒で、別に割安な料金プランがあるわけではないんです。POPLSさんのように新書・文庫サイズ=小説本だとカバーのつくプランがあったりはしますが……。しかも料金体系は当然スケールメリットによって部数に対して逆累進な中で、小説本は圧倒的に数が出にくいので更に漫画本より割高に。いや言い訳めいてしまいましたが。

この辺が小説書きにとって「一冊目をお持ちいただいて初めてスタートライン」と言われる所以なんですが、自分の作品のプレビュー的小冊子というのはそこに対するある程度の追加情報になるかなと思ったわけです。自分の作品を煮詰めたようなものとか、あるいは本編のサブエピソードなど。またこれを「無料配布」にはせずあくまで100円程度頂戴する「コピ本形式」というのも結構重要で、無料配布本って「選んで取った/選ばれた」という感覚に欠けるため、受け手・作り手双方にとって今ひとつ真剣味に欠けるんですよね。自分自身、無料の本はまず受け取らないし。

ただ、これは当然POP作りなんかより遥かに労力を食うモノなので、毎度お届けできるかと言われると怪しいんですけどね!(汗)

余談

コミケみたいなどかーんとした即売会も独特の祭りの空気があって好きだけど、やはりこのサンクリ@サンシャインやその他都産貿のイベントなど、「低い天井の下、蛍光灯の灯りの中で」展開される即売会の匂いってたまらないモノがあるなぁと実感する。イベントの空気といえば非常に愛着のあるコミティアが真っ先に思い起こされるけど、あれも最近はビッグサイトが中心だしね。最近あまりオンリー系などに(買い手としても)顔を出さないだけに、この変わらぬ「ある種ローカルな」イベントの匂いに惹かれてしまうのだろうな。

よくよく考えてみれば、サンクリってこの手の匂いを残したままそれなりの規模になってる数少ないイベントである。今まで創り手側としては全然参加してなかったけど、この2回を切っ掛けにもう少し顔を出すようにしようかな、なんて思ったのでした。

今日の一滴="−−−−" (2007/06/18)

【2007-06-18-月】

ヴェネツィアのショコラ:Vizio Virtu

店近く、San Tomaのトラゲット付近。少しはヴェネツィアらしい写真も載せないとね!

ヴェネツィア四方山話としてはまた少々毛色の変わったネタに。街をふらふらしていたところ、ショコラテリアを見つけてしまったのである。その名も「Vizio Virtu`」(ヴィッツィオ・ヴィルトゥ)。うっかりすると見落としそうなほど、商店街でもない普通の場所に建っている。……まぁ、ヴェネツィアの店にはこういうの多いんだけど。

店の前まで行けば普通にショコラテリアなのだが、ヴェネツィアではこういうタイプのショコラ専門店は見かけたことが無かったのでちょっと新鮮。昨年のヴァレンティヌス祭でのルカ・マンノーリ、今年のグイド・ゴビーノなどイタリア勢のショコラは大好きなのだが、よもやこのヴェネツィアの土地で見つけようとは。嬉しい偶然の発見もあったもんだ。

ショーウィンドウ。ジェラートや冷たいショコラータもありますよ風看板が。

ちなみにラインアップは定番っちゃ定番が並ぶ。蒸留酒入りのショコラが多いのが目を引くが、コレがいわゆる練り込みではなくボンボンタイプ、ずがんと遠慮なくグラッパやらアルマニャックが楽しめる作品と知ったのは帰国後で、もう少し買っておけば良かったと少し後悔。あと、ショコラにペペチ……つまり唐辛子を練りこむのはイタリアの流行りなんだろうか? また面白かったのはカカオを練りこんだフェットチーネで、これは土産用に迷わずゲット。調理はオイル系なら普通に味付けして良いと言ってたが、シンプルにオリーブオイルで食ってみたところ、確かにかすかに、本当に後味にかすかにだけど、カカオの香りがふっと漂っていた。

なお面白いのは、こういったガナッシュ等って普通日本なら「1つ幾ら」で値がついてるけれど、ここでは「どれでもグラム幾ら」の計り売りなのである。実は向こうのお菓子屋ってこういう八百屋方式を取ってるところが多いのだが、ショコラまでその対象だったとは……。そんな事情もあって、ほとんど英語の通じない店員さん相手に指定の個別包装を頼むのには結構苦労してしまった。慣れない言語の数字って、最も身近で扱いにくい代物だからねぇ……。ま、それもまた楽し。

かくして、わざわざ滞在最終日に再度店を訪れ、土産用ショコラを買い込んだ如星であった。一個ずつ宝石のように丁寧に……とかいう発想は無く、箱に詰められるだけ詰めるわよ!というオバちゃん攻撃がまた楽しい。この他チョコペーストや、各種リキュールをたっぷり湛えた砂糖菓子「ロザリオ」を確保。なお肝心の味については、普通に旨いレベルだなってとこ。近年の東京じゃ世界中のショコラティエの作品が気軽に買えることを考えると、わざわざ苦労して空輸してくるほどでこそないが、それら世界の名店と対等に渡り合えるレベルの店である。特に蒸留酒を使ったショコラについては、今まで数多くのヴァレンティヌス祭でも出会った事のない逸品で、酒飲みのチョコという如星の好みにピタリと合っていた。もしヴェネツィアに行く事があれば、例えば現地のホテルで夜ちょいと頂く、なんて風情で買って帰るのがお勧めかな。地図は写真の名刺をご参照あれ:)

ちなみにこの「ヴィッツィオ・ヴィルトゥ」という名前、帰国後辞書で引けば「悪徳と徳」といった不思議な単語である。ヴィルトゥ、って単語の方は、マキアヴェッリを読んでたりするとお馴染みの単語かも:) そういやリアルト界隈で見つけた飲み屋も「悪魔と聖水」なんて謎な名前がついてたり、塩野七生の小説には「不治の病」なんて皮肉な名前の病院が出てきたり、イタリア人のネーミングセンスってそういう相反するモノが好きなのかもね。(後日追記:これは「悪徳の栄え」の映画版タイトル(Vice and Virtue)のイタリア語訳なのかも。その場合間に「and」である「e」が入るんだけど、まぁそのもじりかなー)

今日の一滴="−−−−" (2007/06/18)


 
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