VERBA VOLANT, SCRIPTA MANENT.

如星的茶葉暮らし

■ 03月中旬 ■

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酒の一滴は血の一滴。茶の一滴は心の一滴。ネタの一滴は人生の発露。


 

【2006-03-15-水】

マブラヴオルタ・シナリオ後半(1)

マブラヴ・オルタネイティヴレビュー後半。前回からの続きである。

またしても半月も時間が空いてしまったが(汗)、その間何度かリプレイしてみて、やっぱり勢いのある良作だなぁという印象を改めて受けた。周りにプレイ済の人間が増えたことで、だらだらとくっちゃべってネタを深める機会も増えたしね。微妙に愚痴も書いたけど、やはり記憶が薄れないうちに書ききってしまいましょー。

絶望と逃走の改竄世界は純夏へと続く

まずはシナリオの続きから。先にも書いたけど、歴史を変える意欲バリバリの訓練編、精神的原点と冥夜の物語が語られるクーデター編と、軍事物としても引き込みの強いシナリオを並べておいて、まりもの惨死で急転直下というやり方は本当に巧い。絶望と逃走編とでも言うべきか──彼女の死に様やタイミングの是非には議論もあるだろうけど、シナリオとしては実に強い意味を持つ転回点として巧いタイミングだったと思うし、「死は唐突で無意味」という軍事物ならではのドライ感も程よい味になっている。素直に「巧いなー」と思う次第だ。

そして元の世界帰還後は、もうage節全開の追込みっぷりに、ある意味惚れ惚れする(苦笑)。単体でも強烈なまりもちゃんの惨死を伏線にして再利用してくるとは……。その後の記憶流出の展開といい、逃げても逃げても逃げられない現実というモノをSF的世界設定で描いた、指折りの「名シーン」だと思う。また何より、後半の「純夏編」とも言える展開に読み手の心を繋げる、こちら側の純夏の深い想いの描写と、それを更に断ち切ってみせ、更に更にそれを回避する術を知るという流れ。絶望続きの中にも、救い−絶望−再始動というミニ構造を織り込んでいるのが実にうまい。

……と、言うか。いんなほわいる、くろこだいる。純夏が日記で失われる記憶を補完するシーン、「記憶の流出」と「記憶の巻戻り」の違いこそあれ、「ハイペリオン」のレイチェルを連想してしまったのは俺だけか。自分が一番愛しているモノを忘れるという悲劇。それを必死で留めようと、狂ったように自分の日記を読み漁り、必死の想いで明日の自分に伝言を残す彼女。「日記を読めば絶対思い出せるから頑張れ!」 ───正直に言おう。全オルタシナリオを通じて、唯一泣いたシーンであります。号泣。 エクストラではそんな強い印象が残らなかったのだけど、純夏ってこんなに凄いヤツだったっけ……。絶対逆らえない運命じみた奔流に、それでも想いだけを棹に全力で抗うという姿にはすげー弱いのです。もう純夏ラヴですよラヴ(笑)。おかげでこれ以降終盤の白銀の目的意識に、ストンと感情移入できてしまった。いやー恐るべし純夏効果。

00ユニットから甲21号作戦、横浜防衛戦

順当に世界観の謎が解かれ、また軍事モノ的にも熱いシーンが続く、一番脂の乗った箇所である。

00ユニットの話については、純夏をそういう方向で使うかぁ、といったところ。後でSF的元ネタ考察で改めて触れようと思うけど、並行世界に脳髄と来れば、生体量子演算ユニットは当然妄想していたのだが(笑)、利用目的についてはちと予想が外れたか。そして純夏激ラヴ状態に入り込んでいるので、甲21号作戦前から横浜襲撃直前までの流れは本当に辛かったし、二人の関係が巧く行ってからも「元の世界と今の世界の二重存在との恋」という話を巧くまとめてたなという印象だ。

……そういえばこのゲームが18禁であることを不意に思い出したかのようなあのエロシーン、如星個人的にはとってもダメ。またこのページを何かの間違いで見ていた人がドン引きな台詞を敢えて書くと(苦笑)、別に触手エロが嫌いなワケではないのだ──それ/その飼主が性的目的さえ持っているなら。意図の見えない拷問とか生体反応実験みたいなのは苦手なのでありますよ……止まらない妄想力が更に酷いシチュを勝手に構築していって悶え苦しむというアホな男なモンで。ちなみにSF的に見ればアレは単なる「発見した炭素機械」に対する反応実験の一環で、中には脳髄になるまで痛覚を与えられ続けた個体とか……うひー、妄想展開やめやめ(死)

さておき。甲21号作戦は純粋に燃え/萌えましたね。SF・軍事面の話は後に置いとくとしても、軌道爆撃と艦砲射撃による飽和攻撃を先行させた強襲揚陸作戦と、まぁ萌え要素を詰め込めるだけ詰め込んだってところか:) 今まで読み手が散々焦らされていた、人類側の対BETA基本戦術がド派手に一挙開陳されるわけで、小出しにするより全然効果的だ。また直前に恋愛談義をした伊隅にのみ純夏の存在を明かしたりと、戦争モノの中にもキチンと純夏の物語を一本通しているのが嬉しい。逆に軍事物に興味がない人だと、用語面の解説もほとんど無いので、読み進めるに苦しい場面かも。あと戦術機の紙芝居アニメもどきが延々と続くのだが、まぁ雰囲気は伝わるものの「紙芝居」の域を出ないな、ってのが正直なところ。前にも書いたけど、FateHollowの静止画移動と画面エフェクト+巧みな音響効果って凄かったんだ、と改めてわかる。

で、その軍事的盛り上がりのピークが「横浜基地防衛戦」。アメリカ人ではないが、やっぱ防衛戦ってシリアス度が段違いなので読み物としては実に燃えるのよね。またそこにSF設定的な謎解きという熱い山場を重ねてきてるし。正体不明意図不明の敵集団が突然数十年来のドクトリンを変えてくる現場。明かされる突然の人類戦略崩壊の危機。いやぁ、オタクのツボってこういうのを言うんじゃないだろーか(笑)。そのままの流れで突入する「桜花作戦」の出撃シーンはちと演出過剰気味だけど、かの若本規夫ボイスに掛かるとどんな月並みな演説でもグッときてしまったり。またマブラヴにしては珍しく(?)、脇役の存在が光ってたのもポイント高い。水月、遙、月詠と、各キャラのサブエピソードなんて扱いではなく、しっかりと本筋に噛み込んだ活躍を展開してたし。特に水月の扱いの良さは、彼女の君望時代の不遇にageスタッフが報いたのではと思わせるほどだ。水月が(結果的に純夏のプロジェクションを受けてとはいえ)BETAネットワークの本質を突くシーンは、全編を通じてもっとも緊迫感のある名場面じゃないだろうか。

いずれにせよ、全体の流れをぶれさせない、という点において、中盤以降ここまでのストーリー展開は高く評価できる。さすがに長く練っただけのことはあるなー、という感じだ。……もっとも、エクストラやアンリミに既に伏線が散りばめてある辺りから見るに、ストーリー自体はとっくに固まっていて、時間を掛けたのは紙芝居システムなのではという気がしなくも無いが(苦笑)

長くなったので以下次号

今日の一滴="−−−−" (2006/03/15)

【2006-03-16-木】

マブラヴオルタ・シナリオ後半(2)

一気に片付けてしまおう。マブラヴ・オルタネイティヴレビュー後半続き。

桜花作戦〜エピローグ:誰がための物語

前回までシナリオ面は割りと誉めてきたと思うけど、この最終シナリオ、読後感を左右する締めの局面に至って、残念ながらそのシナリオがちとダレているように思う。物語のクライマックスは横浜防衛戦だったとも言えるので、桜花作戦は長いエピローグに過ぎないとすれば、あまり盛り上がらないのは構わないのかもしれないけど……。それにしても、物語の軸がぶれてしまっているように思えるのだ。

おさらいしよう。オルタシナリオの前半は「白銀の物語」として、彼が覚悟を決めていく話である。最後の方では冥夜姉妹の話も絡んでくるけど、あくまでそれは彼の覚醒を促す話だし。で、シナリオ後半は「純夏の物語」として、白銀と純夏の関係、そして彼女の世界への関わり方を扱う話だ。注意すべき点は、前回でも書いたけど、中盤の転換点以来そもそも物語が「純夏寄り」に進んでいくってトコだ。これは純夏ラヴに傾いた如星の贔屓目だけでもないと思う。彼女を軸として山場も謎解きも進んでいくのだし、また彼女のある種唐突な登場を唐突と感じさせないよう、純夏側への感情移入をさせるように誘導が入っているのだから。

で、まず批判点一。濃厚な軍事シーンだった甲21号作戦、横浜防衛戦が続いており(間に一応純夏編を挟んでるとはいえ)、正直この辺りで戦術機戦闘シーンは食傷気味になっている点だ。そんな目新しい戦術があるわけでもないし、またこれはSF的批判点でもあるけど、XG-70シリーズがちとオーバーテクノロジー過ぎ&その割りに活躍しないという虻蜂取らずになってて面白みに貢献してない。何より横浜戦に「クライマックス感」を詰め込みすぎたというか。まぁ作り手もその辺分かってはいるのか、途中シーンをばっさり省いたのは連戦気味への配慮なのだろう。ただ逆に「激戦シーンを省いたから更に面白みが無い」「学習したBETAの恐ろしさってのが先行部隊の全滅という結果にしか現れてない」という印象も招いている。要はそもそものバランスがどうもなー、というところだ。

批判その二。最後にはお約束のようにマブラヴ組部隊面子が散っていくのだけど、冥夜以外の面子の死に様に「はいはい犠牲犠牲尊い尊い」というぐらいな印象しか残らないのだ。思うに、前半のイントロ部分でも書いたけど、冥夜以外のマブラヴ組が本当にタダの脇役の扱いで物語に絡んでこないため、彼女らに思い入れが湧かないのが問題だろう。確かに個々のキャラの心情を書いたシーンは多少あるけど、それが本筋に絡まなければタダのサブエピソードなわけで。エクストラ編での記憶で移入してくださいと言われても、それこそ白銀じゃないが数年前の記憶だし(笑)。……マブラヴ組では本来メイン外の月詠が一番光ってたのは皮肉だ。と言うか横浜戦で散った君望組二人の方がよっぽど物語の核心に絡んだ舞台を用意されてるじゃないか(苦笑)

そしてその三、最大の批判点。端的に言えば「冥夜、要らない子」である。いや別に冥夜派を煽ってるワケではない(笑)。冒頭でも書いたけど、物語全体の後半は完全に「純夏の物語」にシフトしている。発売前の宣伝文句でもあった様にこれは純夏ルートであり、読み手の意識もそっち側に誘導されているというのに、その最後の山場に冥夜の見せ場、しかも純夏に相対するわけでもない見せ場を持ってくる意味は何なのか。マブラヴ本編のラストや、あるいは君望のように、相手ヒロインルートを引き立てる天秤の様な登場ならまだしも。冥夜側に読み手が傾いてもおらず、おまけに「珪素系生命体が宇宙を制している可能性」のような巨大テーマの直後に「私に構わず撃て」なんて超古典をやられても軽い軽い。一本道ルートのオルタにマルチシナリオを用意する余裕が無かった代わりに、冥夜要素を無理やり詰め込んだようにしか見えないのだ。

な・に・よ・り、直後のエピローグにて、この出撃が純夏の最後の決意の結晶であることが判明するではないか。──定められた活動停止へのタイムリミット、BETA学習の鍵となってしまった悲劇、そして因果導体となった白銀を解放する決意。これだけの純夏要素を「実はこうでした」としか展開できないのは、シナリオ構成として平凡の極みと言われても仕方ないと思う。無理に冥夜を語る暇があったら、桜花作戦全般、そして特にコアとの相対シーンに、前述の純夏の想いをもっと伏線として練り込んで欲しかった。もうそれこそ古典的王道でも十分効果的だったろう、タケルちゃん、ばいばいで主砲発射とかさ!(笑) エピローグ「マブラヴ」にも霞を出すぐらいなのだから、パイプ役としての彼女を引き立てるシーンにもできたろうし。あー本当にもったいない。最後の最後で無理に冥夜を出すことで、純夏機軸の物語をブレさせてしまったのは大きくマイナスだ。おまけにあのシーン飛ばせないし(苦笑)

総評

ふー。延々と一月以上掛けて書き連ねてきたけど、根本的には最初に書いたように、「読ませる」話、読み応えのあるシナリオに仕上がっている。最後のぶれ方は残念だけど、まぁ全体の圧力溢れる流れは十分な読後感をもたらしてくれる。派手な軍事物、ダークなSF世界、極限精神待った無しと、マブラヴの看板を冠しつつもアージュらしい追い込みの掛かった作品だ。……これがアージュらしいと覚えてる人がどれだけいるかは疑問だが(苦笑)。また「純夏ルート」の名に恥じず、マブラヴ本編で全然印象の薄かった彼女をキチンと見直せましたな:)

ただ、これまた最初に書いたように、字幕風の読みづらいシステム、頑張ってはいるが若干飽きのくる戦術機紙芝居、そしてほぼ一本道ルートなことを考えると、OVAにしても良かったのでは?と思わないでもない。18禁要素も必須だったかと言われるといくらでもやりようはあったと思うし。まぁこれは言ってみただけという奴で、現実にはアニメ製作なんて厳しいことは承知なのだが。それに対象マーケット層もPCゲームとアニメじゃずれてしまうしね。あと如星自身は結構SF読みで、軍事物もかじりかけという人間なので、そうでない人がどういう感想を持つかにはちょっと興味がある。純夏ルートに対するスパイス、というにはたっぷりこってり煮込みスープカレー激辛虚空なわけで。

ともあれ、本編の圧力の高さなどを考えても、結構読み手を選ぶ、しかしツボにはまれば大変楽しめる作品と言っていいだろう。本来であればその筋が苦手で無い人間には是非勧めたいのだが、問題は前提としてマブラヴ本編(エクストラ、アンリミ)をやらなきゃいけないってトコ。アンリミはともかく、エクストラみたいな学園モノには興味ありませんよという人は難しい。逆に学園モノは読めるけど軍事物は、という人はアンリミ以降が辛いだろうし、お勧めするにも趣味の広さをも問う作品である。どちらもOKOKという方は迷わず60時間ほどぶっこんでくださいませ:)

今日の一滴="−−−−" (2006/03/16)


 
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