VERBA VOLANT, SCRIPTA MANENT.

如星的茶葉暮らし

■ 05月下旬 ■

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酒の一滴は血の一滴。茶の一滴は心の一滴。ネタの一滴は人生の発露。


 

【2008-05-22-木】

狼とお弁当と清浦夏実の声

今更ながら、アニメ版「狼と香辛料」の主題歌だった清浦夏実「旅の途中」が好きすぎる。アニメ版ホロロレは「背景世界の丁寧な映像化」以外の物語面では正直得る物の少なかった作品だが、この曲を生み出し「狼と香辛料」の世界観と結びつけた一点を持って、原作に多大な貢献をしたと言ってもいい:) 音楽自体が持っている強いイメージと、強い力を内に抑えたあくまで静かな清浦夏実の歌い上げが、見事なまでに「香辛料」の世界観、いやホロの心象風景までを描き出している。

力強いイントロから一転して、あくまで静かな前半パート。「ただひとり迷い込む旅の中」という歌詞に頼らずとも浮かぶのは、地平線まで続く草原に夜明けを臨む茫漠とした風景──この感覚、ドラクエ世代なら「アレフガルドの荒野に一人放り出されたときの気分」といっても通じるかもしれない。勇ましいファンファーレの後、一歩フィールドに踏み出したときの感覚。何処まで広がっているのか分からない世界観。──やがて少しずつ夜は明け、広い世界に少しずつ慣れてきた頃合に、仲間を得て一気に展望が開ける瞬間が来る。期待に満ちた間奏の後に来るのは、哀しげな歌詞とは裏腹の、最初と同じ旋律でありながらしっかりと伴う者が存在する安定感だ。

多分、この曲で一番印象深いのは「巡る世界」を思わせる、サビ前の間奏めいた歌詞の部分だと思う。……けど、これが急に「追憶」に思えるのは何故だろう。直後に続くパート、歌詞は「二人でなら何処までも」という大変希望に満ちたものなのだが、如星にはこの部分、届かなかった願いを歌い上げているように聞こえてならない。手を繋いで何処までも行けると「思っていた」あの頃、共に世界を巡った記憶を歌うかのような。小説版でも未だ描かれていない、ホロとロレンスの旅路の先を暗示してるかのよう──というのは思い込みすぎだろうか?

ああそうだ。この曲はその冒頭以外、歌詞のトーンと曲調のトーンが裏返しなのである。それゆえに、歌詞だけにも曲調だけにも頼らず、相乗効果で深みが出てるんだろうなぁ。ホント、作品世界にここまでハマったOP曲ってのも珍しい。本来、常にそうであるべきなんだけどさ。

で、音楽に疎い如星、この清浦夏実という方はさぞかしベテランだろうと思っていたら、歌い手としては超ルーキー、しかも90年生まれときた(汗)。そして最近話題のほっともっと弁当CM曲「お弁当を食べながら」。……CM曲に無駄に全力を注ぐ(いや余技なのかもしれんが)菅野ミュージックにピタリとあう声。真綾よりも(若いのに)大人びた声質なので、むしろ今後も菅野ようこと仕事して欲しいなぁ、と思わせるに十分な「名曲」だったのだ。むしろ菅野+真綾復活の最新曲「トライアングラー」が今ひとつと感じたクラシカル真綾ファンとしちゃ、菅野+清浦夏実というコンビには妄想と知りつつも期待を掛けてしまうのですよ。いやホントに。

(2008/05/22)

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【2008-05-25-日】

ひまわり短編執筆中・改(バレなし)

サイオンジ・アエロス080便、滑走路09はいつでも離陸可能です。良き旅をSaion Aeros 080, it's an honor to clear you for immediate takeoff on Runway 09.

ミヤウラタワー、こちらサイオンジ・アエロス080、滑走路09よりの離陸許可了解Miyaura-Tower, Saion Aeros 080, Runway 09 cleared for takeoff, acknowledged.
……お気遣い感謝するThank you for your hospitality.

栄誉honorか、と管制塔のちょっとした稚気と客気に滲み出る宮浦魂に苦笑しつつ、機長は機体を静かに滑走路へと進入させた。満月の光に柔らかく照らされながら、SA-DAN080型高々度旅客機の白い機体がゆっくりと旋回し、闇の中へと真っ直ぐに伸びる二本の誘導灯の間に鎮座する。

「SN0080……いよいよ第一便ですね、機長」

計器の最終チェックを行いながら、昂ぶりを隠し切れない様子で副長が口を開く。

SN0080便──それは宮浦から「ひまわり」へ向かうスペースプレーンに初めて付けられた民間用フライトコードだ。成層圏を飛び出す程度の体験ツアーでも、高度数百kmの低位軌道ですらなく、35,786kmの彼方、静止軌道へと飛翔する正真正銘本物の宇宙飛行である。興奮するなという方が無理な相談だ。

とは言え、管制官とそっくりのその若さを今度は少々羨ましくも思いつつ、機長は年長者の責務として余裕を持った笑みを浮かべて言葉を返した。

「やるべきことは全てやった、後はお空に飛んでいくだけさ──西園寺コントロール、こちらSA-DAN080、宮浦航空管制よりの離陸許可確認。最終離陸許可願います」

西園寺宇宙開発部・試験飛行士の責務として、機長は宇宙管制課に通信を入れる。

(まあ、こんだけ民間人を乗せておいて試験飛行も何も無いだろうが)

間髪いれずに返ってきたオールグリーン、ゴー・フォア・テイクオフの回答をもってブレーキを解除、彼は低速大気圏内用スロットルレバーに手を伸ばした。

「こんなに人が来れるんなら、よーいちも来られれば良かったのになあ……」

地上を滑っていく飛行機の中で、わたしは思わず呟いた。
小さな、本当に小さなその呟きに、隣のパパが怖いぐらいの勢いで振り向いた。

─────今、なんと?」

──人類の歴史が変わる瞬間は、もうすぐそこまで来ていた。

──「ひまわり」二次創作短編
「真夜中の風景」より

→小説化されました。詳細はこちらまで。

ひまわり短編とかレビューとか

ひまわり関連の文筆、今週末中に書き上げる予定が、すっかり終わりませんでしたorz

思いの外、原作の詳細な把握に時間を取られてしまいました。この辺で考えてたことをある程度まとめていますが(超ネタバレ注意)。……それにしても、超久々にWeb公開される新作が、同人ゲームの二次創作になるとは……。「ハマる」って、本当に分からないものですね:)

(2008/05/25)

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【2008-05-29-木】

ひまわりレビュー(1):構成で読ませる物語と序章の重要性

先日からの日記やはてダを見てお分かりの通り、この辺りで発見して以来、同人ゲーム「ひまわり」に思いの外ハマっている。いわゆるギャルゲに属するゲームだが、ここ数年その手のゲームは僅かな例外を除いて途中で投げてしまう如星が、半年振りに寝食を忘れて読み耽ってしまった。巧いシナリオとゲーム構成に、程よく効いたSFスパイス。まさに“Two Thumbs Up!”でお勧めの一作だ。ちなみに今回はネタばれ無しで。

シナリオと構成で魅せる、というと、思い出すのが昨年同じようにハマった「シンフォニック=レイン」である(作品自体は2004年のもの)。単なるギャルゲのループフォーマット・マルチエンドを超え、同じ時系列の物語をループさせつつ表裏一体で描き、その結果としてレイヤーを重ねたかのような鮮やかさで結末を導き出し、しかもその結末にさえ「嘘」を紛れ込ませる──そんな神域の構成を持っていたのがSRという物語だが、本作「ひまわり」はそのSRを髣髴とさせる。いや、流石にあの域にあるわけではないのだが、それでもやっと巡りあえた「同じ系譜の者」と言っても過言ではない。

多分言うまでもないが、「ロリっ娘宇宙人同棲ノベルゲーム」という謳い文句は釣りも甚だしい。それでいて実は別の意味で真実を突いてもいるのだが──それはさておき、本作はまず

などを要素とした、「スタンダードなボーイミーツガール」として物語を展開する。

その後2周目で視点と舞台をガラリと変えて一気に読み手を深奥に引きずり込み、そして3周目で最初と同じ時系列と視点に戻って「表裏一体の物語」を語り、4周目で緩やかなエピローグを語る、そんな構成になっているのだが……。この「一章の終わりで話を急展開させる」という進行自体は、君望等で既にお馴染みにすらなりつつある展開だ。しかし、如星はその物語全体の評価や考察の前に、この一章の造りを最初に評価しておきたい。「ひまわり」の一周目は「ロリっ娘宇宙人同棲ノベル」の看板をさほど裏切らず、王道ゆえに結構読める少年少女の色恋モノになっているのだ。

……なんだ当たり前じゃないかと思う莫れ、「本編」展開に力を入れるあまり「導入編」が目的感もないダルい造りになっていたり、伏線を散りばめようとし過ぎて仄めかし電波文だらけになり、読み進める気力が萎えてしまう作品は枚挙に暇が無い。かつて如星がAirを投げ、その後いくつかのギャルゲを投げ、あるいはアニメ視聴を2話で止めたりしている原因も実はここにある。「壮大なテーマ」や「急展開」が流行った一方で、受け手を物語に引き込む「掴み」の部分が疎かになり、かつ「どうせ途中で止めないだろ」と言わんばかりにそれで良しとする風潮が目に余るようになっていた。受け手にとって、物語の初期に各キャラの心理状態が分からないこと自体は当然だけど、それで如星がよく皮肉に使う「電波ミーツ電波」、行動原理があまりに意味不明だったり理不尽だったり、物語が何処へ転がっていくかを欠片も示さなかったりする「シナリオ」を展開するに至っては、とても「読者に読ませる」ことを想定しているとは思えないのだ。舐めていると言っても良い。

そうではない。本来そういった「本編展開」を持つ作品の「一章」がやるべき事は、展開に備えて読者をキャラにのめり込ませることである。「涼宮遙」を心底彼女だと思えるように。「アリエッタ」を自分が裏切っていると心底思えるように。そしてこの「ひまわり」は──本展開に至らずとも「アリエス」の痛みを理解し、共に歩みたいと思わせる、その役目を見事に果たしている。これら全ての作品に共通するのは、「第一章」が「第一章」だけでも立派に物語として成立しうる点にある。安定した文章力に支えられ、ちょっと狙い済ました萌えっ娘にギャグシーン、少年ロケット物を思わせる舞台装置をキチンと生かしてボーイミーツガールを展開し、それでいて「本展開」の伏線がこれでもかと散りばめられている事に後で気が付ける。

敢えて本稿ではネタバレなしで「一章」について語ってみた。これはこのゲームを勧めるにあたり、最初からお楽しみいただけますよ、という如星からの強いメッセージである:) ロリっ娘良し、宇宙部良し。一章だけでも気持ちの良い読後感はお約束できるので、是非ともこの機会にプレイされては如何だろうか。大体何と言っても──ナンテコッタイ──1300円で20時間はお楽しみいただけるのだ。

ネタバレ覚悟OK、あるいはプレイ済の方は以降のレビューを待て次号。

ちょっと閑話に続く。

(2008/05/29)

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【2008-05-31-土】

アリエス級生体用超高速銀河航宙艦「マルギニス3」

ARIES Class "Marginis-III" Saionji Dissemination Bureau Vivitransferring Galactic Ship

統一統治計画の一環として2144年に製造された、アリエス級超高速銀河航宙艦。

西園寺播種管理局(SDB)所属。縁の海「マーレ・マルギニス」の名を冠されており、マルギニスの名を持つ艦としては3代目にあたる。

アリエス級は同局保有の宇宙船の中でも最大の速度を誇る超高速艦である。ホーキング航法と600Gにも達する核融合推進を組み合わせ、「生体用」の名が示すように、生身の人間を一世代で銀河を横断させる代物だ。

アリエス級の加速度は遮蔽フィールドの限界を超えており、搭乗者は初期加速と同時にラズベリー・ジャムはおろか、数分子厚のタンパク質ペーストと化して一旦死亡する。減速終了後、肉体は自動的に復活培養槽に送られ(正確には座席自体が培養槽として機能する)、古き良きクローン生成技術の応用で肉体が再構築される。肉体が再生し神経細胞が活動可能になると、高加速耐性を持つルナ・ウィルスが記憶の転写を開始し、ここに搭乗者は「元の人間」として再生するのである。

この航行プロセスの為、当然ではあるが、アリエス級の搭乗員は受容遺伝子(ルナ・レシピエント)注入手術を受けた者、つまり合法的な人類に限られる。

──なお、アリエス級による航宙の前後で、果たして搭乗者が同一人物、同一の意識体であるかは搭乗者本人にすら分からない。

蘇生した搭乗者は航宙前とまったく同じ肉体、同じ精神、同じ記憶を持つが、搭乗前の意識との連続性は「宇宙一分前生成論」にも似て、一切証明不可能である。搭乗前後はおろか、減速後に蘇生中の人間と、蘇生後記憶転写を受けた人間が同一人物なのかどうかすら疑わしい。例えば肉体の再生は多大な苦痛を伴うはずと推測されているが、再生プロセス中の記憶は直後の記憶転写により上書きされ消滅するため、文字通り「想像から絶されて」おり誰も窺うことができない。

この連続性の不確定性を以って、アリエス級での航行は人体クローンの原料に「当人の死体」を使っただけの「人間製造」に他ならない、とする声は根強い。が、これは現代人類の金科玉条、通常ホーキング航法による人類播種計画「ルナ・ディセミネーション」の正当性をも揺るがしかねない危険思想であり、播種法違反として管理局による厳しい取締りの対象となっている(最長82年の懲役並びに受容遺伝子(ルナレシピエント)の除去が科せられる)。

もちろん元ネタはダン・シモンズ「エンディミオン」大天使級急使船より。ひまわりの未来と組み合わせると面白そう(ネタです。次回作予告ではありませんw)

(2008/05/31)

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