君が望む永遠〜短編サイドストーリー

MACHINA EX DEO

遙なる海の彼方

DISTANT OCEAN


この世界は、この海は、無慈悲なまでに広すぎる。

無辺に広がるこの海を、誰が望んだと言うのだろう。人を温めるぬくもりも、心を安らげる色彩もない、無慈悲で空虚な空間ばかりのこの海を。満たしても、満たしても、その空隙を埋めることのできないこの世界に、耐えていける者がいるのだろうか。

こんな泳いでいくこともままならない、広い海など要らないのかもしれない。
羊水の中に浸って、ぬくもり以外の入る隙間もない狭い世界にいた方が、人は幸せなのかもしれない。望まれているのは、そんなほんの少しの水なのかも、しれない。

何処までも広がる、無慈悲なる大海。

なくしたものばかり いつも持ち歩いていた
思い出は笑顔やぬくもりや 幸せまで持ってる

欲しいもの全てが眠る希望の日々に
ただひとつ足りないものがある

僕はやっと気づいた



─── Sakamoto, Maya "YUCCA"

MITSUKI


「しかしまさか向こうから誘いがあるなんてなぁ。意外と言うかなんと言うか……ま、ようやく、って方が正しいのかもしれないけどさ」


無作法なまでに気楽な台詞の裏には、空気をこれ以上重くしないようにという細やかな配慮がある。何も言わなくてもお互いそれを理解できる間柄は、本当に貴重だと思う。特に、自分自身どう振舞っていいか分からないような、こんな日には。

軽やかなエンジン音が耳に心地いい。免許を取る暇も余裕もない私にしてみれば、こうして助手席に乗せてでももらわなければ、車で出掛けることも稀だった。何気なく眺めていた流れ行く対向車から、運転席の声の主に視線を戻す。

「まあね……。あいつはあいつなりに、なんか思うところでもあったんでしょ、きっと。去年も大丈夫かと思ったけど、直前になったら……声、掛けられる雰囲気じゃなかったしね」


重くなりがちな会話ではあるけれど、時間のもたらす摩滅はこんなところにも及んでいる。暗雲の中を進んでいるような日々は後ろに流れ去り、今や二人の間には、どこか振り払えない微かな影が残るばかりだった。

それでも、太陽の照り付ける季節には、似つかわしくない翳りが。



「とにかくっ。ホントありがとね、慎二君。私たちの中で車持ってるの、相変わらず慎二君だけだからね……ほんと、いつもゴメン」


車の外を流れ過ぎる風景。
ハンドルを握る彼の横顔は、凄く自然にその絵の一部になっていて、……こんなこと思うのも変なんだけど、かなり大人びて見える。きっと口に出そうものなら『そりゃオヤジって意味か?』なんて言われそうだけど。

「速瀬がそんなこと気にするなんて雨でも降りそうだな?……って、運転中は危ないから止めろって!」


こうしてふざけ合っていれば、あの頃の慎二君と変わってないこともわかる。なのに、さっきのように感じるのは……心の何処かで、彼だけが、前を向いて歩き続けてきたと思っているからかもしれない。今ではみんな、それぞれの人生を歩み始めているけど……ね。



そんな私の気持ちを知ってか知らずか、涼しい顔に戻って前を見続けたまま、相変わらずの爽やかな声で彼が応えてくる。

「ま、今年もダメだと思ってたからな……。俺なんか近頃会う機会自体少なくなっちまってたし。なあ、最近あいつ……速瀬から見て、どうなんだ?」


私も暗さを振り払うように、手のひらを前に向けて軽く伸びをしてみせた。

「んー、変わらないよ。普通に元気。相変わらず、何も変わってない。普通に生きてて、結構優しくて……相変わらず」


変わらない、私の言葉。

「相変わらず、か。しょーがねー奴だなあいつも……」


私のその言葉に、慎二君は軽い溜め息と、すっかりその事実に慣れてしまった微かな悲しみを乗せて答える。でも、続けて彼の口から出てきた言葉は、ちょっと意外だった。

「で、そういう速瀬はどうなんだ? その……孝之のこと……」


不意に振られた話題に、私は軽く手を振って見せる。

「あはは、気にしないでよっ! あんな台詞をしっかり言われちゃねえ。それにニ年も失恋してられるほど、人生って短くないわよ。……それで想いを続けられるほど、私は強くないし」


私の答えが予想以上にさばさばしていたのか、ちょっと苦笑気味に慎二君が答える。

「そっか……それが失恋と片思いの違いってヤツかな。俺はニ年経っても、相変わらずの片思いを続けてるけどさ」


「何処の誰にか知らないけど、慎二君も諦め悪いね。ふふっ、年単位で片思いしてるなんてさ、まるで……」


まるで。

口の端まで上った音の持つ重さに、一瞬思考が停止する。
思わず少し顔をそむけて、窓の下を流れる海を眺めた。湾岸を走る高速から見下ろせる海。都心の港の水が綺麗なはずはないけれど、この距離から眺めていれば……海は、ただ何もなく、広いというだけで、どこか人の心に訴えてくるものがある。



あの海の向こうまで泳いでいける。
そう本気で信じていられた夏に、置いてきた名前。

「まるで……遙みたい、だよね」


電話ですら避けていた、久しぶりに口にした、この名前。
音になった名前を肯定するかのように、一瞬の間を置いて慎二君も口を開いた。

「そうだな……まるで涼宮、みたいだ」


君が望む永遠サイドストーリー
if series 最終話


遙なる海の彼方vast and distant ocean

SHINJI


「孝之っ! 早く降りて来いよっっ!」

「悪ぃ、すぐだ! 今すぐ行くから待ってくれっ!」


二階の廊下から下の駐車場へ向けて、聞きなれた声が降ってくる。

孝之が「すかいてんぷる」本就職と共に引っ越してから一年近く経つというのに、俺はまだ数えるほどしかこのアパートに足を踏み入れていない。最近はお互い本格的に社会人になって、忙しいから……ってだけじゃない。確かにたまにとは言え、孝之も誘えば出てくるし、部屋で呑もうと言えば渋るが拒まない。時には馬鹿をやって笑い、時には職場の愚痴をこぼす。

だがそんな関係が続いているからこそ、俺にも、速瀬にも、孝之がどこか触れさせない一線を引いてしまっていることが分かっちまうんだ。



「呼付けといて準備してないってどういうコトだよ……」

「支度中に電話が入っちまったんだよ!」


駐車場へと降りる階段を二段飛ばしで駆け下りながら、俺の呆れ顔目掛けて孝之が叫び返してきた。──やっぱり最後まで、部屋に上がって待ってろ、とは言い出さないままに。



あの夏が終わって以来、あいつは集まりに自分の部屋を提供することをかなりためらうようになった。まるで、あの夏の記憶に繋がるものが──他愛のない、ほんの微かな思い出話でも──自分の住処に入ってくることを恐れているかのように。

引っ越した本当の理由も、そこにあるんだろう。
駅に近い方がいいなんて言ってたけど、それが所詮同じ町の中でわざわざ引っ越すほどの理由なはずがない。涼宮を、速瀬を、そして孝之自身を見続けてきたあの部屋から、逃げだしただけ。柊町駅の反対側に引っ越すことで、白陵を通らなくて済むようにする程の念の入れようだ。

引越しからしばらく経ち、ようやく孝之を納得させてその新居に足を踏み入れたとき、俺も、速瀬も、引越しを手伝わせなかった理由を悟った。

……そこには何もなかった。

孝之の部屋からは、涼宮も、速瀬も、消し去られていたんだ。速瀬が過去を懐かしめる小物のひとつ、食器のひとつすら残っていなかった。あの夏に孝之が大切に抱きかかえていた、絵本も写真も見当たらなかった。……捨てたかどうかまでは、わからないけどな。

とにかくそこにあったのは、生活に最低限必要な家具ばかり。
人間味のないあの部屋も、最近じゃ少しずつマシにはなってきているが……それさえも、孝之を心配する俺たちへの義理立てに過ぎないのかもしれない。

遙が事故に遭ったあの夏の直後とは違い、なまじ普通の生活に戻れているように見えていただけに……俺たちは、孝之の「普通の生活」を壊すのが怖くて、何も、言えなかったんだ……。



「いやほんっっと悪い。お待たせいたしまシテ」

「相っ変わらず朝弱いわねアンタ……電話1本ごときでバタバタしてんじゃないわよ」

「おまえと違って男の朝は忙しいんだ」

「ぶっとばすわよっ!」


どこか懐かしい孝之と速瀬の掛け合いを眺め、苦笑しかけ……さすがに気づいた。

孝之が明るすぎる。
元々言葉の掛け合いを楽しむアイツではあるけど……今日は速瀬との反応を「再現」しようと、言葉を選んでいるみたいだ。

……ま、無理もないさ。今日と言うこの日に、孝之が身構えない訳がない。俺たちと一緒に行くと言い出しただけでも、大きな前進なんだ。



良くよく表情を見てみれば、速瀬もそれに気づいてる。気づいていて、そのままにしているってことか。それならばと、俺もその流れを壊さずに乗っておくことにした。

……さ、そろそろ二人を止めて出発しないとな。

「二人ともいい加減にその辺にして早く乗ってくれって。折角渋滞避けられる時間に出てきたのに意味なくなるだろーが」

「うっ、そうだったな」


俺がそう呼びかけると、孝之は速瀬の拳を巧みにすり抜けて、車の方へ近づいてきた。夏の太陽に焼けた車の屋根に手をついて、慌てて手を離す孝之。

「……まぁこの場合、一方的に悪いのはオマエだけどな」

「慎二までコイツの肩を持つのか? 変わってしまったなぁ、デブジューさんよ」

「こんな暑い日にゃルーフの上あたりがお勧めだぞ、孝之」

「……か、勘弁してください」

「へへん、覚えておくのね孝之。正義は勝つってことをね」

「そこ、うるせーぞっ」


また再戦しそうな孝之と速瀬を押し込み、さっさと車をスタートさせる。



夏の暑い日。
涼宮の待つあの場所へ。



2003年8月17日。
俺たちは今日、涼宮遙の三回忌を迎える。

「すまねえ……でも、お前との時間は……遙に結び付きすぎてるんだ」


「この悲しみは、いつか癒えるのかもしれない」




「でも俺はもう、お前と一緒に歩いてはいけない」


「こんな俺を……本当に、ありがとう。……ごめんな」

TAKAYUKI


降りしきる星。
支えるものすらない、冷たい星の海の中で、瞳を閉じて、両腕を広げ、ひとり星々の雨に打たれている、遙。

「遙……どうして何も言わないんだ……」


違う。
黙っているのは、俺が君の声を、忘れてしまったから。
目を閉じているのは、俺が君の瞳を、忘れてしまったから。

変わることない、永遠の時の中で……





耳障りな電子音が頭の芯を刺す。
気が付けば、視界を埋めているのは見慣れてきた天井。



時は確実に、俺の中から遙の細部を奪っていく。
なのにこの夢だけは、決してなくなることがない。遙の記憶に繋がるものを極力封印した生活をはじめても──ただ逃げたわけじゃない、記憶を都合よく「改竄」してしまうのが怖かったんだ──星空だけは、決して避けることができないのと同じ様に。

星空を見上げるたびに、俺の記憶は更新され、そして、この夢を見る。



電子音の正体、電話の着信音は相変わらず鳴り続けていた。

夢から目覚めた直後の電話は、遙の死を伝えてきたあの電話をどうしても思い出させてしまう。例え電話を買い換え、着信音を変えても……耳の奥に焼き付けられた音は消せないんだ。

鳴り止まない、電話。

「にしても……しつこい奴だな」


半ば取る気はなかったけれど、これだけ鳴り止まないと少々うるさい。時計を見て今日の日付を思い出し、慎二か水月辺りだろうと思って受話器に手を伸ばした。

「もしもし……?」

「…………」


なんだ?反応がないぞ。いたずら電話か、大空寺の新手の攻撃か。

「もしもーし? 黙ってるなら切りますよ」

「あ……えと……な、鳴海さん?」

「え……?」


茜、ちゃん?
間違いない、茜ちゃんの声だ。一年振り、いやそれ以上か……

記憶が一瞬にして時を遡る。
だがそれは、茜ちゃんに対してではない。その声を聞いた瞬間、俺の頭の中に……遙の声が、蘇っていた。おずおずと話し掛けるようなその口調も、大人びて落ち着いた声質も、俺が最期の日々に聞いた遙の声に、あまりに似ていたんだ。



あの夏が終わり、秋が来て、まるで実の息子に対するように、俺を心配してくれた遙のご両親。全てに責任を感じて、三年間の自らの想いを全て打ち明け、そして謝ってくれた茜ちゃん。

俺はその全てを振り切り、住所も電話番号も変えた。
水月や慎二に口止めはしなかった……俺の意図が伝われば、それを踏み越えてくる人達ではないと、わかっていたからだ。

肉親を失ったあの人達となら、遙の死を共有できたのかもしれない。深い悲しみの中に、共に前を向く力を見出せたのかもしれない。それこそが、涼宮家の望んでいたことであり、同時に涼宮家に対する俺の義務だったのかもしれない……

頭では分かっている。普通はそうやって、親しい人の死を受け入れていくのだと。

だけど……遙を殺したのは俺なんだ。

遙の時間を事故で奪い。
遙を記憶の奥底に封じ。
遙の全てを踏みにじり。

遙を一度ならず、三度も殺したのは、この鳴海孝之なんだ……

その自分が、涼宮家と関わり続けていることに耐えられなかった。彼らが俺を赦してしまうことが分かっていて、それが耐えられなかった。彼らの中で、自分が癒されてしまうのが、恐かった……!


星の向こうに、渡ることも出来ない茫洋たる星の大海の彼方にたたずむ、遙。
この遙に触られたくない。この遙を失いたくない。決して触れることの出来ない遙、俺を苛む永遠の絶望だけが、遙に対する底の無い懺悔を満たして続けてくれるのだから──



「……あ……えっと……」


耳元で鳴る声に我に帰る。
首を一振りして記憶の連鎖を断ち切ると、俺の長い沈黙に、不安そうな空気を伝えてくる受話器に向かい、久しぶりの名前を声に紡いだ。

「ああ、茜ちゃん……久しぶり」


手渡された悲しみ
それは乗り越える為にあると
空見上げ思う

HARUKA


涼しい影を投げかけてくれる木々の間を登って行く。
真夏の強い陽射しを照り返す濃い緑が、潮風にそよいでいる。

一年ぶりの風景。
蝉の声。

この暑い夏の記憶は……相変わらず。
だけど……この夏はもう、あの時の夏じゃないんだ。三年も続いた夏は、とっくに終わってしまっていて……残っているのは、永遠に続く絶望だけ。

都会の喧騒を離れた古都の外れ、俺たち三人は海を臨む小高い丘の上を目指す。

街の灯りが少なく、かつ海に面したこの古都は、星が凄く綺麗に見える。その中でも、さらに星々に近い場所。晴れた夜には降り注ぐであろう星の雨を、遮る物の無いこの丘に、遙は眠っている。

どこか、あの白陵の丘にも似た、この場所に。



二年前の秋の夜。
獅子座流星群の降ったあの夜に、俺は星降る海の中に遙の笑顔を、遙の声を、その瞳の色を明確に思い出していた。

だが一年前、遙の最初の命日。
独りでこの丘に立ち、星の彼方の遙を仰ぎ見たとき──その記憶の全てが、急速に時の中にかすれている事を悟り、愕然としたんだった。

懐かしい、遙の記憶。

あの本屋で初めて認識した、花火を怖がるような大人しい女の子。──そんな子が、俺のことをずっと見てくれていた。人に想いが伝わることの喜びを、俺に教えてくれた。可愛くて、暖かくて、何処か頼りなさげで、でもしっかりと目標を見据えてて。

白陵の坂を手を繋いで降りていくときも、図書館で静かに勉強していたときも、海を見ながら指を絡めていたときも。いつだって遙は自慢の彼女だった。パイを焼いたからといって俺をデートに誘い、絵本と言う自分の世界が相手に伝わることを心から喜んで。

そんな理想の彼女と、これからも永遠に時を刻んでいけることが嬉しくてたまらなかった。自分達の幸せを、信じて疑わずにいられた日々が、そこにあった。



眩しい空を見上げて思う。
宇宙の冷たさが満ちる星の海に消えた遙に絶望するのは、一度はこの手で触れることすら出来た、遙の幸せを踏みにじった俺への当然の報いだ。例え幸せの記憶がかすれようと、この冷たい世界から降り注ぐ絶望と苛みだけは決して忘れまいと、逃げることの出来ない星空に誓ったことを思い出す。

……なあ、遙。

──今日水月と慎二を誘ったのも、そんな絶望を日常にして生きていけると、確認するため。俺なら大丈夫、俺はお前を想いながら普通に生きていけると、お前に伝えるために来たんだ。水月も、慎二も、こんな俺を心配してくれてるしな。

お前を守れなかったことを、決して忘れはしないから。
お前も星の向こうから、俺を見続けていて欲しい……



そこは小高い丘の上。
俺たちは一言も口を利かないまま、静かに手を合わせた。





ふと、風が吹き抜けていく。
木陰とはいえ、暑い真夏の空気に長く浸った身体に心地よい。

さて……と。

「水月、慎二……。すまねぇけど、ちょっと独りにしてもらえるか? 向こうの茶屋で待っててくれると助かるんだけどさ」


俺のその言葉に慎二が口を開きかけたが、それを遮るように水月が答える。

「……はいはい、それを断るほど私たちは野暮じゃないわよ。さ、慎二君、こっちは冷たいお茶と甘い物で涼みに行こっ」

「あっ、お、おい」


そう気楽に台詞を残すと、慎二の腕を組むように取って、水月はさっさと歩き出す。
相変わらずの態度に俺は苦笑する。まったく……慎二がお前に惚れてることぐらい、さっさと気付けってんだ。あからさまに照れてるだろうが。

……もちろん俺だって馬鹿じゃない。伊達にあいつとの時間を過ごしてない。
今の水月の表情が……明らかに俺を心配してることも、分かってしまう。遙の同じ表情は、もう記憶の底に沈んでしまっているというのに。



大きく息を吐き出して、気持ちを整える。……これでいいはずだよな。
二人が歩み去ると、風景に溶け込んでいた音が急に耳に飛び込んでくる。葉擦れの音、蝉の声、耳元を抜ける風。俺は吐き出した息を取り返すかのように、それらをひとしきり胸に吸い込むと、遙の傍らに立つ木の向こうを振り向いた。

「……すみません、こんなことお願いして」


木陰の反対側から、彼女がおずおずと姿をあらわす。

「構わないよ。少し歩こうか……茜ちゃん」


大きな瞳が世界の何処かの果てで見つめてくれてる。

AKANE


遙の眠る墓地を過ぎると、さらにその上へと登る小道がある。
大したものがあるわけじゃないけれど、眺めだけはここよりもさらにいい。ま、さすがにあんな狭いところには何も作れないからな。

その小道を、俺と茜ちゃんは黙って歩いていく。

さっきの遠慮がちな態度は、一緒に来ていた水月と慎二を追い払った感があったかららしい。二人きりになってからは何処か吹っ切れたようで、すたすたと俺の先に立って道を登っていく。日頃運動不足な俺には、正直ついていくのが少々辛いペースだった。水泳で鍛えた足は健在ってことか。

それにしても……


(姉さんのところで、久しぶりに話がしたいんです──



今朝の電話には、正直驚いた。
茜ちゃんがわざわざ電話番号を調べてた事も、この遙の命日を選んで掛けて来た事も、そして、この場所で二人だけで会いたい、と言われた事も。



遙の葬儀が終わり、そして水月と別れた後。
遙のご両親、そして茜ちゃんからなるべく遠ざかろうとしていたけど、ある日俺は偶然彼女に捕まった。彼女は全てを知りたがっていたし、同時に全てを伝えたがっていた。

俺にしても、もう何かを隠してまで守るものなど何も無い。

二年前のあの日、俺と茜ちゃんは、全てを語り合った。事故のこと、水月のこと、病院に来るなと言われたこと、それが間違ってはいなかったこと。彼女の想い、水月のこと、罪の意識。

遙という、かけがえの無い存在のことを。

もっと早く、素直に分かり合えていれば、もっと遙にできた事があったのかもしれない。そう思わせるような時間の後、彼女は俺の腕の中で泣き、俺は彼女の髪を濡らし──それ以来、茜ちゃんに会うことはなかった。

別れ際に不意に近づいてきた彼女の瞳の輝きと、触れてきた唇の感覚を残して。





丘の頂上。
潮の音が聞こえてきそうなほど、眼下には濃く青い海が間近に広がる。

海を見て駆け出していった茜ちゃんに、少し遅れる形で頂上に着こうとした瞬間──

──そこに、彼女がいた。

そばにある木に手をついて、髪をかきあげながらこちらに振り返る彼女。逆光に照らされたその姿は、あまりに鮮明に……五年前、あの丘の上の遙の姿に重なっていた。それが茜ちゃんだと判っていても、まだ自分の胸にあの日の記憶が残っていることを再確認し、一瞬息が詰まってしまう。

しかし……やっぱり姉妹、だな。
あの幸せな日々のちんまいガキはもう何処にもいない。遙が目覚めた夏に既に現れていた茜ちゃんの女らしさは、この二年でさらに落ち着いた感じを見せていた。そう、まるで……もしあの時遙がベッドから抜け出せていれば、きっと同じような美しさを放っていたんだろうと思う。

気の強そうなところだけは相変わらずで、俺はその事にちょっとした安堵を見出していた。



「改めて……お久しぶりです、鳴海さん。お元気そうで何よりです」

「久しぶり、だね。茜ちゃんも……うーん、なんか『ちゃん』なんて呼ぶの恥ずかしいぐらい……その……」


微妙に詰まった俺のその言葉に、茜ちゃんは何処か懐かしい悪戯っぽい笑みを浮かべて答える。

「あ〜、だったら『茜さん』とでも呼んでもらえるんですか?」

「あ、いやそれはその」

「ふふっ、『茜ちゃん』のままでいいですよ。『茜』って呼んでもらえないなら、私にとってはどれも同じようなものですから」


冗談か本気か分からないような台詞を、彼女はさらりと言ってのける。
……ここに来るまで、いや今でも茜ちゃんの意図が分からないだけに、正直俺はどう対応したら良いか分からないでいた。でもこの笑顔を見ていると、自然とこのまま茜ちゃんのペースに乗せられていきそうな気がする。

自然と笑い合えていた、あの頃のように。

「そういえば茜ちゃん……俺の電話番号は、どうやって?」

「え、ああ、それは平さんから聞きました。白陵に書類取りに来ていらしたところに偶然お会いして。……鳴海さんのことも、それで聞けたんですよ」


慎二が、俺のことを……?

「引っ越した先でも、鳴海さん元気にしてるって。それを聞いてすごく安心しました」


衒いの無い彼女の破顔。

だが俺は、複雑な思いで茜ちゃんの言葉を聞いていた。
確かに俺は「元気」にしていた。遙が事故に遭ったあの後とは違い、俺は傍目には日常を続けているように見えたはずだ。例えそれが、この身に絶望を受ける為であったとしても。

だがそのことを、慎二が見抜いていない訳が無い。そして、茜ちゃんが慎二に聞きたかったのは、そんな俺の表面的な健康のことだけじゃなかったはずだ。

……多分、慎二はその全てを分かっていて、茜ちゃんに答えたんだと思う。あいつはそういう奴だ。「一番外にいるから、一番冷静に物が見える」なんて良く言ってたけど、まったくその通りらしい。俺のことも、茜ちゃんのことも考えれば、慎二の返事はそのとき何よりも正しいものだったに違いない。

「私たちから、白陵から遠ざかっているのは少し悲しいですけど……鳴海さんが、元気でいてくれるなら。父も母も、そう言ってました」


茜ちゃんは遠くを見るような、それでいて遙を思わせる優しい瞳で、そう言葉を紡いだ。

「それは……最初の時の過ちを、繰り返すわけには行かないからね」


何気ない台詞。
会話の流れに沿った自然な台詞のはずの俺の言葉には、自分でも感じられるほどの、不自然な強い重みが乗っていた。茜ちゃんも当然それに気づき、怪訝そうな顔をする。

「……俺は落ち込んで過ごすなんてこと、もう許されないから、さ。上を向いて、二本の足で立って。それが、俺が遙にできる事だから」


上を向いて、星の向こうから無言で俺を見下ろす遙を見据え。
二本の足で立ち、手の届かぬ永遠の絶望を受け止めるために。

もちろん、そんな台詞をわざわざ茜ちゃんに伝える必要は無い。これは、俺の中で、ひとり心に打ち付けて置くべき鉄の碑文なのだから。



俺の表情を、茜ちゃんがどう解釈したのかは分からない。
彼女の目が、困惑から真摯なものに徐々に変化し、そして……彼女の目は海の方に向けられ、見えなくなった。



夏の海。
もう夕方に近いというのに太陽はまだまだ高く、見つめていられないほどに煌めく濃紺の海。その輝きは水平線すら霞ませる。

茜ちゃんは海の方を向いたまま、しばらく潮風が彼女の髪を梳くがままにさせていた。





「海……綺麗ですね……。蒼くて、何処までも広くて……」


潮風が小止みになり、お互いに時の流れを思い出した時。
茜ちゃんの口から、そんな言葉がこぼれた。その台詞には、決して間を繋ぐような、場当たり的な印象は微塵も無かった。それどころか、俺たちの伝えたい事を繋ぐ、無くてはならない要(かなめ)という気がした。

「何処までも広くて……か」


俺は何を言っているのだろう。だけど、茜ちゃんの言葉に繋げられた俺の心の底からは、日頃他人に明かすことのない甘美な絶望が、止め処も無く溢れてくる。

「でもひとりで眺めるには……海は、広すぎるよ。水は冷たくて、果てしなくて……。大体俺は茜ちゃんみたいに泳げないからな。おかげで昔は酷い目にあったもんだ」


沈み込んでいきそうな自分の言葉に、笑顔を取ってつけて引き上げる。
茜ちゃんは一瞬呆気に取られたように、やがて軽くあきれたように応じてきた。

「鳴海さん……まだあのプールの日のこと根に持ってるんですか? それは私もあの時は……ふふっ、オトナゲなかったと思ってますよ。まだ私も若かったんだなあ、って」


横顔に見える、小悪魔のような笑み。おまけに大人気なかった、と来たもんだ。──かろうじて笑いに逸らした俺の話に、茜ちゃんはうまく乗ってくれたようでホッとした。

遙の眠るこの丘の上で。
何処か白陵を思わせる懐かしい場所で。

俺は不思議と、遠い夏に心が繋がるのを感じていた。



「でもね、鳴海さん」


茜ちゃんは海に手のひらをかざすように伸びをして、呟く。
若干の緊張がこもった声。彼女はそれを隠そうとしているみたいだけど。

「広い海にだって、対岸はあるんですよ」


……え?

「その気になれば、泳いで渡ることだってできちゃうんだから」


その台詞は、まるで彼女自身に言い聞かせているような呟き。
同時にその台詞は、俺の心の何処かにさざなみを起こした。まるで要のように感じた、さっきの海の言葉と同じように。

「……私は行こうと思うんです。それを、鳴海さんに伝えたくて」


「茜……ちゃん?」


意を決したように、言葉を紡ぐ茜ちゃん。
……この雰囲気、この眼差し。いい加減、ちゃん付けで呼べなくなってきた気がする。そんな空気を自然に感じさせてしまう何かが、彼女から放たれているんだ。

「一度は諦めかけた夢ですけど……白陵大に二年いて、ここでやりたかったことは一通りできましたから。これで胸を張って、ちゃんと留学できます」


彼女はそこまで言うと後ろを向いて、遠く海へと目を向けた。

「……この、海の向こうへ」


え、それってもしかして……

「アメリカの大学に水泳留学する話があるんです。やっと姉さんにもそれを報告する決心がつきました……から。鳴海さんにも、伝えておきたかったんです」


……やっぱりそうか。

「海の向こうに……茜ちゃん、が……」


ほんの刹那、俺は一種の羨望の感情が心を支配するのを感じた。かくも前を向いて歩んでいける、彼女の強さに。もはや時の刻まれることの無い遙を置いて、自分だけが前に進むことへの躊躇いは俺以上にあったに違いないというのに。

「そうです! だって……」


茜ちゃんは俺のその刹那の感情を感じたかのように、くるりと俺の方に向き直る。彼女は煌めき輝く海を背に、彼女の魅力の全てが詰まったような最高の笑顔を浮かべ、大きく両手を広げてみせた。



「……だってこの海には向こうがあって……頑張れば渡れちゃうんですよ! 暖かく乾いた陸にいたんじゃ、分からないことだって見えるかもしれないじゃないですかっ!」




茜……ちゃん……?



後頭部を鈍器で殴られたような衝撃が、俺の中を駆け巡った。
……それは、彼女の台詞に対してじゃない。



これは……はる……か…………っ!?



この丘の頂上に来た時、俺は茜ちゃんの上に柔らかな遙を重ねていた。
だが今は違う。そのまったく逆だ。

俺の中の過去の遙。その上に、この力強い茜ちゃんが、重なっていた。

強くて、前を向いて、海を越えていく力を持った……茜ちゃん。
遙は……そうさ、遙はこの茜ちゃんの……姉じゃないか!

記憶が次々と蘇る。

水月の紹介で俺の近くにいるようになって、でも心が離れているのを感じてしまって……それでも、自分の想いを伝えることを諦めなかった、遙。

俺はそれを中途半端に受け入れて、あいつを傷つけたのに……自分にとって辛い言葉だと知っていながら、電話で俺の本心を聞きだそうとして。

いつだって、自分が目指すと決めたことは曲げなかった遙。
可愛らしい、守ってあげたくなる容姿の裏にあるそんな強さ……俺は、十分それを垣間見ていたはずなのに……。遙を守れなかった悔しさのあまり、遙は俺が守る一方なのだと思い込んでいた。あいつが目覚めたあの病院で、時の流れに混乱した遙を、儚く、守るべき存在としか見ることができなかった。

片や俺のしてきた事と言えば、自分可愛さに人を傷つけてきただけ。
そうやって、遙の時間を再び、そして永遠に奪ってしまった。

その俺を、遙が星空から見下ろしているだって?
暖かく乾いた陸で、まるで雨乞いのようにただ絶望が降ってくるのを待っているだけの俺が、遙に手を伸ばそうとしているだって?

今、ようやく気づいた。
そんなわけが、無いんだ。遙が目覚めたあの日々の、茜ちゃんを思い出してみろよ。

もし遙が、俺が遙の時間を奪ったことを知れば……
それが、どうしようもない俺の自己保身から出ていると知れば。遙は俺を軽蔑しただろう。叫びすらしただろう。少なくとも、ただ黙って俺が振り向き直すのを待っていた訳が、無いんだ。あいつが俺を拒絶する事だって、ありえた筈なんだ。



遙の死から二年。
その間俺が渇望し、耐えていると信じてきた絶望は……何も変わってない。遙が無条件にそこにいると言う甘え、俺が一番辛いんだという甘えから、何一つ変わっちゃいなかったんだ。そんな俺を、遙が黙って見下ろしてるなんて……そんな都合の良い話を、信じていただけだったんだ……!



「私も頑張らなきゃ。前向きに生きていかなきゃ……そう思えたのは、鳴海さんのおかげなんですよっ」


茜ちゃんの声が、再び俺の意識を現在へと運ぶ。

「痛みだけで鳴海さんと繋がってるなんて、もう耐えられませんでした」


少し上目遣いに俺を見上げる茜ちゃんから、はにかんでいても真っ直ぐな言葉が、俺の全身にまで届いていた。彼女はそのまま言葉を続ける。

「ずっと行くかどうか悩んでいたんですけど……鳴海さんも、ちゃんと前を向いているんだって聞いて。私が姉さんにできることは、泳げるところまで泳いでいくしかないって思えたんです。例えそれが、海の向こうまででも」


違うんだ、茜ちゃん。
君の言う俺の前向きは、全然違うものなんだ。

それなのに。
君たち姉妹はどうして、いつもこうやって、俺が忘れているものに気づかせてくれるんだろう。人に想いが届く喜び。時間を紡いでいく幸せ。かけがえの無い大切さ。取り返しのつかない時間。前を向く……力。

それに気づかせてくれるのは、いつだって。





「……鳴海、さん?……泣いてるんですか?」


その言葉に、俺は自分の頬を伝い落ちる冷たさに気が付いた。
慌ててシャツの肩で涙を拭い、彼女に笑顔を向ける。

「あはは、いや大したことないって。水泳……いやさ、夢追いかけてる茜……ちゃんが、正直かっこよく見えて。思わず涙でちまった」


「ふふっ、鳴海さんにそう言ってもらえると嬉しいです。鳴海さんにはもう一つ、ちゃんと約束して行こうって決めてたから」


彼女はそう言うと、一歩、俺に近づいた。

優しい遙の微笑みから、悪戯っぽい水月の笑顔に。
その両面を持っているのが、茜ちゃんの魅力、なんだよな。



「で……約束って何?」


「約束、ってより宣誓みたいなものかな」


「え、正々堂々戦うことを誓います……ていう、アレ?」


「そういうんじゃありませんよ……。鳴海さん、私アメリカで実力をつけて、色んな事を経験してくるつもりです。でも……恋愛だけはしないで、帰ってきますからっ!」


……はい?

「姉さんが待った時間に較べれば、私なんてまだまだだって気づきました。……茜って呼んでくれる日まで、私諦めませんから!」


笑顔、決意、不安、解き放たれた心。
彼女はその全てが織り交じった言葉を一気に叫び切った。

「私……鳴海さんに会えて、本当に、良かった……」


そこまで言うと急に照れくさくなったのか、茜ちゃんは慌てて俺から一歩遠ざかる。

「……そ、それじゃっ!」


そしてそのまま、一気に丘を駆け下って行ってしまった。
途中、こっちを向いて手を振りながら。

……怒涛のような勢いだったな。やっぱり、茜ちゃんらしい。

それに、茜って呼び名なら……本当は、もうそう呼ぶ事だけならできたんだけどな。でもそんなことを口にしようものなら、雰囲気がないと怒鳴られるのは必至だっただろう。

それがなんとなく、とても大切なことのように思えた、から。

走り去る彼女の後姿を眺めながら、俺はぼんやりとそんなことを考えていた。

誰も一人で死んでいくけど 一人で生きていけない

いつか誰かと僕も愛し合うだろう

VAST OCEAN


長い夏の日にも終わりが来て、やがて夜の帳が下りる。
俺はあのまま、丘の上から海を眺めていた。

ゆっくりと星々が近づいてくる中で広がる海は……やっぱり、俺には広すぎる海だ。でも茜ちゃんにとっては、目指すべきものが対岸にある、渡っていける海なんだな。

遙は……確かに、この広い星の彼方に存在する。
ただ黙って俺を待っているだけじゃない。ただ俺を責めるためだけでもない。ただこの無慈悲な空間を、その優しさで埋めるかのように。

この果てしない星の海の片隅で、俺がそのことを忘れぬ限り。

そう。
この誰にでも平等に無慈悲な空間。要はそれをどう捉えるか、ってことだったのかもしれない。遙なるこの星の海は、それでも渡って行くことの出来る世界、だったんだ。


「孝之〜っ! 何やってんだ、いい加減遅すぎるぞ!」


坂の下から、慎二が俺を呼びながら登ってくる。
そこにいるのが水月と慎二、茜ちゃんがいないことを薄闇の中で確認してから、俺は広がり始めた星空へと目を向けた。



(夜空に星が瞬くように……)

星に指を絡めて、夢を語ったあの頃。

(溶けたこころは離れない)

その全てを忘れかけてた俺にも、溶けた心は残っていたのかもしれない。

(例えこの手が離れても)

握り締めていられたはずの手を、自分可愛さで離してしまった俺だけど、

(ふたりがそれを忘れぬ限り)

記憶の改竄なんて、恐れている振りをしているだけだったのかもしれない……



……なあ、遙。おまえは……



…………そう、か。そう……だよな。



やがて星を見上げる首が痛くなり、振り返って登ってきた二人のもとに並ぶ。

「さーて孝之、こんだけ待たせたんだから、今日はいろいろ聞かせてもらえるよなあ?……今日は潰れるまで帰さないからなっ。覚悟しとけよ」


慎二は笑いながら、そう言って俺の肩を叩いた。
本当にこいつは、場の空気ってものを敏感に悟って、それでいて気づいてない振りをしながら言葉を選んでくる。慎二のこの配慮も、横で笑っている水月の笑顔も、これほど鮮やかに見えたのは久しぶりな気がした。

「ん?……ああ、覚悟ならもう出来てるさ」


俺はそう軽く言うと、黙って丘を下る道を歩き出す。



歩きざまにもう一度だけ、星空を眺め直して。






「ったく……広い海だよな、しかし」


dedicated Ending theme: Sakamoto, Maaya, "Yucca".
あとがき
ふーっ。難産だったifシリーズ。
ようやく完結です。元々シリーズなどにするつもりはまったくなかったのですが、やはりきちんと物語には終わりをつけておきたくなって書き始めたこの「遙なる星の彼方」。あれよあれよという間に長くなり、気がついてみれば如星の単一SSとしては最長のものになってしまいました。

今回は「SS」よりも「短編」を意識して書いた初の作品となります。
が、つくづく思いましたね、この手の作品は紙で表現したほうが楽ではないか、と。スクリーンでの長い物語は、やはり読むのが大変だなぁ、と思ったりもしたのでした。こういうものはちゃんと本にして、イベントで出した方が良いのかもしれませんね(^^;;

「君望の名を借りた如星の主観」。今回はこの傾向が一番強く出てしまったのではないでしょうか。……もしこれを読まれた皆様が、それでもこの作品から「君望」のトーンを感じていただけていたら、これに勝る幸せはありません。


相変わらずトーンのモチーフは「プラネテス」、しかも一部台詞にそのまんまな個所がある点は、如星の力量の至らぬところ。平にご容赦ください。……ちなみにオチに元ネタはありませんので探さないでください(^^;;


こんな作品でも、掲示板などにご感想等頂ければ幸いです。
still more...
民間出身から叩き上げで月面開発隊に加わり
その最年長隊員として人類月面進出の礎を築いた
伝説の宇宙飛行士とも言える存在


海盆ベイスンに築かれた雨の海最大の都市が
彼の手によって拓かれたことを知る者は多いが
その人生は記録の闇に埋もれている


彼の名前がナルミ・タカユキであるという
確かな史料は残存していないが


ただ一つ その街の名の由来と
その入り口に埋め込まれた小さなプレートの意味は
月の恋人達の間で伝説のように語り継がれている
welcome to

アカネア・ベイスン市AKANEA BASIN CITY

founded in 2037

遙なる星の海への小さな一歩にdedicated to one small step toward the distant ocean
──Where is your destination?
special thanks to:
幸村誠「プラネテス」
坂本真綾&菅野ようこ「YUCCA」

有須真人「乱月の儀」
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