君が望む永遠〜短編サイドストーリー

MACHINA EX DEO

まだ見ぬ彼女の恋に

1998.08.11(火)


……起きたら誰もいなかった。
お父さんとお母さんは買い物だろうけど……お姉ちゃんもついて行ったのかな?

う〜ん、今日お姉ちゃんがお兄ちゃんと遊びに行ったはずがない。
なんせあのお姉ちゃんと来たら、お兄ちゃんに会う前の夜はすんごいそわそわしてるし、私になんだかんだ相談持ちかけてくるもんね〜。……しかもはっきり言ってただの惚気。あーあ、話に付き合わされる健気な妹の身にもなってみてよ……

……話がずれちゃったな。
というわけで、今日お姉ちゃんが鳴海さんと遊びに行ったんじゃなきゃ、昨日言ってた買い物についてったんだろうな。どうせ板橋屋のいもきんつばがお目当てだろうけど…… ま、お姉ちゃんほどじゃなくても、あそこの和菓子は美味しいから歓迎、っと。置いて行ったからには当然おみやげ買ってきてくれるよねっ。



……あ〜あ。ヒマ。
こんなことなら誰かと約束でもしとけば良かったかな……

(誰と?)

……鳴海さん、かぁ。
いつのまにか、お兄ちゃん、って呼ぶようになっちゃったけど。

(どうして?)

あのお姉ちゃんの彼氏。二年越しの想い人。
水月先輩に聞いた話じゃ、カッコ良くて頭もいい先輩に告白されても揺るがなかったらしいお姉ちゃんの恋人。どんなに凄い人かと思ってたけど……

でも……今ならなんとなくわかったような気がするんだ……
お姉ちゃんが鳴海さんを好きになった理由。

最初は、ただの面白い人だと思った。あと、相手が女性でも年下でも普通に喋ってくれる人だなぁ、ぐらいで。

でも、ただの面白い人、なだけじゃお姉ちゃんが想い続けるはずないもん。それに、あの水月先輩が仲良くしてるってことは、そりゃーもーそれなりの男なんでしょー。……あの日初めて会うまでも、そうは思ってたけど。けれど。

……なんだろう。すごく、お姉ちゃんといて自然だった。
特に優しいってわけでも、気が利くってわけでもないのに。

そして、水月先輩とのコトを話したとき。
友達を、本気で心配できる人、だったんだ。いきなり本気で怒り出すから、私ビックリしちゃったけど。普通なら恥ずかしくて誤魔化しちゃうような台詞を、真剣に私に言ってくれた。

「友達を大切にできない人は、誰も大切にできない……」
そんなお姉ちゃんの言葉を思い出した。あ、お姉ちゃんと鳴海さんって似てるんだ……って思った瞬間。お姉ちゃんが好きになった理由が、少しだけわかった気がした、瞬間だったんだ。

……でも、鳴海さん気づいてなかったみたいだけど、「もちろん遙のことは何より大切だよ」って台詞も、普通ならすんごい恥ずかしいと思うんですけど〜。
ふふっ。お姉ちゃん、アイサレテマスなあ。ごちそーさま〜。

……鳴海さん、かぁ。

あ〜あ、私も彼氏つくりたいな〜。
やっぱり女の子だし、優しくしてくれる人がいれば嬉しいし、……その優しさは……独り占めしたいもん。

(鳴海さんみたいなヒト?)

……お姉ちゃんがうらやましい。……ううー。いいないいないいないいなっ!!
はぁ……どうして私の周りの男の子って、みんなあんなガキばっかなんだろ。

(みたい、な?)



…………。



ヒマ、だなあ……
会いたい、なあ……

…………いいよね、だって私のお兄ちゃんだもん。
確かお姉ちゃんが子機触ってたよね……あのお姉ちゃんが夜中に電話の説明書みてるなんて、怪しいもん。見てあげようじゃないのっ。




…………。




〔T.N.〕?
……ば、バレバレだよお姉ちゃん……わかるに決まってるじゃない……相変わらずツメが甘いんだから……

ま、いいや。おかげで電話、できるんだから。
…………いいよ、ね?

(何が?)

「……お姉ちゃんが……お兄ちゃん……早く来て……」

 
 
あとがき
茜さん(敬称)の、とある一日。
あの日孝之を電話で呼び出したとき、いったいなに考えてたのかなぁ…と想像してたらなんとなく浮かんできた文章でした。軽い気持ちだったかもしれないけど、それでも思い立ってから電話を手に取るまで、いろいろ考えちゃったんじゃないかなぁ……と。

私は「茜シナリオ」以外では、茜が孝之に完全な恋心を向けていたわけではない、と思ってるので、最初から好きだった派の方々には、ちと歯痒い文章だったかもしれませぬ(特に下とかね)。その点、ご容赦を。

微妙に「水月の遺伝子」をちりばめたりしたのはお遊びです( ̄ー ̄)

3年後、茜さんはこの明るさとのギャップが本当に痛いし、ものすごく辛い立場にいるんですけど……それでも、どこか鬱が付きまとう遙や水月に比べ、素直に「笑ってくれると嬉しい」茜さんが、私は好きなのであります(^^;; 嗚呼。

後半は……だって、これが一番彼女が幸せなエンドじゃありませんか?
茜さんの未来に幸あらんことを切に願って。
still more...
 
 
 
 
 
 

AS TIME GOES BY

あれから。
私は何度もあの日のことを思い出した。何度もあの日のことを後悔した。

……鳴海さんに来て欲しい、と思っただけの他愛もないイタズラ。
それが、どんなに鳴海さんがお姉ちゃんを好きか試したみたいになっちゃって。

「それともお兄ちゃん、お姉ちゃんが事故とかに遭ってた方がよかったわけ?」

なんてコドモだったんだろう。

私があんなことを言ったから。

(……鳴海さんとお姉ちゃんが二人で笑ってたことが。あんなにも当たり前だった時間が、私にとってこんなに大切だったなんて……)

そんなはずがない、関係ない、って思おうとしてもダメだった。

(……私の大切なお兄ちゃんが壊れちゃいそうなんだよ……鳴海さんは、お兄ちゃんはこんなにお姉ちゃんのこと好きなんだから……だから早く目を覚まして……)

私があんなことを言ったから。私がお兄ちゃんを試したから。


───今、こうして鳴海さんは笑っている。その笑いに応える姉さんが、隣にいる。私が、心の底から笑顔を見せられる二人が、そこにいる。

あの時、鳴海さんといる水月先輩を見て。どうして自分が隣に行かなかったんだろう、って後悔して。先輩を、鳴海さんを憎みすらして。心の痛みを、姉さんを見続けることで誤魔化そうとして。

鳴海さんに、酷いこともたくさん言ってしまった。

そして、二人に訪れたのと同じぐらいの幸せが、私にも訪れて。
どんなに都合が良いと言われてもいい、きっと、その都合のよさ、自分の汚さは、自分の隣に誰かが現れたとき感じることになるだろう、から。私が憎み、そして私が傷つけた人が、結局は幸せをくれたんだ。

あ〜あ、やっぱり私、鳴海さんのこと好きだったんだろうな〜。
……それは、ちゃんとした恋に変わる前に、ゆっくりとかすれてくれた。鳴海さんと、姉さんの二人の笑顔のおかげで。そのことで少しほっとして、そして少し、悲しくなったけど。

悲しみと憎しみで、私の心から取り去られた幸せ。
3年間、ずっと欲しかった幸せが、そこにある。
でもこの幸せは、ただ待っているだけで手に入ったものでも、3年前から持ってきたものでもない。

今、自分たちの手で新しく作っていく幸せ。
後ろばかり見て、願っているだけでは幸せは得られないことを、姉さんと鳴海さんが教えてくれたんだ。

さ、今度は私の番、かなっ。

姉さん、いつまでもお幸せに。

鳴海さん、本当に、ありがとう。私の、初恋の人。

いつかその時まで、今は、今に素直でいたい───
───Salute for her love yet unseen.
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