君が望む永遠・遙シナリオ所見

MACHINA EX DEO

涼宮 遙(すずみや はるか)

遙シナリオ

一切の抗体を持たずに突入したので疑問の余地なく遙エンドへ。

長文です。うぐぅ。さすが破壊力最大顕現級遙。

涼宮遙
ある種単純化された「男なら理想にするいかにもヒロイン萌え萌え女の子」として描かれていますが。
これが単純にそうではないのは他シナリオを見れば明白です。他シナリオを見なければ分からないのも、また一興なんですが。

とにかく純粋で前向きな遙。
このシナリオでは、彼女の後ろ向きな面、頑固な面があまり伝わってこない。そのままエンディングに到達してしまって、果たして今後孝之は大丈夫か?と若干勘繰りたくなる向きもありました。
しかし、彼らの「幸運」は、僅か1ヶ月の付き合いという、相手を知るには足りない時間の直後に、お互いをギリギリまで考えあう濃密な1ヶ月が過ごせたことでしょうね。その思いは強いだろうし、他メインシナリオを見る限り、孝之も「ただのヘタレ」ではないようだし。

彼も今後は、傷つくことを恐れず、相手をもっと踏み込んで理解していくことの重要さを理解していってくれるのでは……遙激萌えなワタクシとしては彼らに感情移入した者としては、彼女の幸せのためにそう祈ってやまないのです( ̄ー ̄)

祈るだけでは不安なので、「その後」サイドストーリー執筆を目指してます。私の君望系SSの集大成になると思いますけど。
 

水月のこと

さて、どうしても遙シナリオを語ると水月のことが、そして水月シナリオを語ると遙のことが浮かんできてしまうのが、この2大シナリオの面白みでしょうね。巧く補完しあっているというか。物事の両面を見て、初めて良さがわかるように作られてます。

ファーストプレイで遙へ行く、というのは、(予備知識&考える時間がなければ)至極当然のことかもしれません。プレイヤーは第1章をプレイして、直後に第2章をプレイするわけですから、まさに孝之の「3年前に凍りつかせた想い」をプレイヤーはそのまま持っているわけです。これじゃ他のキャラに見向きもするはずがない。

特に、初期のプレイヤーには、「水月との2年間の付き合い」の重みが伝わってこない。
安心して遙を追いかけられてしまうこのシナリオの「面白さ」は、やはりプレイヤー本人の経験に左右されるんじゃないでしょうか。

氷が融けて、3年前から続いてきた想いと。
2年という時間を共有して、向けられてきた想いと。

水月と過ごしてきた2年間は、孝之にとって不可欠なものではあった。だが、水月は衝撃を乗り越えた後にも必要な人でいられたのか? 2年の歳月を過ごしてきた上で、そもそも彼に隠し事をして付き合ってきたこと(水月シナリオ参照)、そして彼が水月を必要とするように、本当に水月は努力してきたのかという疑問。……水月には酷なようですが、付き合っているだけじゃ想いは続かない。お互いが、相手のことを考え、何ができるかを考えつづけなければ、二人の間にある想いというのは惰性になってしまうんじゃないでしょうか。

#惰性を法的にバックアップし、社会的責任を果たすよう人を仕向ける合理的なシステムを「結婚」というのかもしれません:p 想いを何十年続けられるってのは稀有なことですから。

「あのこと」を喋ったら彼の重荷になってしまう、彼と付き合えなくなってしまう───そんな後ろ向きの心を持ったまま、人を最大限まで想い、考え、愛せるのか。

彼が3年の辛い時間を過ごしてきたことを認め、人間として当然の弱さで水月と過ごしたことを認め、それでも、未来を見続ける。もっと3年前の想いにすがり、過去の関係にすがって孝之と接しても決して不思議ではないのに(少なくともこのシナリオでは)

遙の「勝因」はそこにあり、水月の「敗因」はそこにある。そんな気がします。

それでも、水月の想いも……わかっちゃうんですよねぇ……
シナリオ後半、あの半狂乱とも言える「都合の良い女」を演じる水月。それでもいいから傍に置いてくれと懇願する水月。あれを見て、孝之と水月が作ってきた2年間が、決して薄いものではなかったことが想像できた。想像できたおかげで、あの悪名高き8月24日「遙と決めた後に水月を抱いちゃう」話も、孝之を「ただのヘタレ」とは断罪できなかったのです。

もちろん、大体やっぱ男ってそんな強くないですから(ぉぃ)「男が別れた女に会って思うのは、どうにかしてもう一度ぐらいコイツを抱けないかなァ、ぐらいのものである」という言葉には、一定の真実がある気がしますが……

2年間の重み。それを踏まえた上で、汚れたと半狂乱の水月を放り出せるようなら、逆に遙にも同じコトができてしまうでしょうね。人として相手が自分を必要としていた。自分以外では救えない人がそこにいるときに、けじめと称して相手を放り出す。それは2年間自分が得てきた安らぎを否定することであり、彼女の献身を否定すること。そんな簡単に時間を忘れてしまえるような男であれば、遙のことで悩みなどしなかったでしょうから。

2年間、そこにあった安らぎは本物で。
その安らぎは、決してこの日目覚める遙のために存在していたわけではない。
決してこの日別れるために存在していたわけではない。
……その時、その瞬間が幸せだったのだから……それで、良いではないですか?

想いは1人に向けられるものと信じ、純潔に価値を見出す人には、受け入れがたい要素であることはわかるんですが……この辺りが「プレイヤー本人がどのような恋愛経験をしてきているか」に依存する点ですね。ストーリーテラーという観点からすれば、これはこのゲームの失点でもあるんですが。

と同時に、孝之が水月とこれ以上付き合えないことも、この日に証明されてますね。
あの瞬間、彼と水月は対等でなくなってしまった。彼は、彼女に情けをかける立場になってしまった。対等でなければ、与え、与えられる関係でなければ、恋愛関係は維持できない。与える一方の関係では維持できない。まさに眠る遙に想いを寄せつづけた孝之自身のように。

彼は、そこでそのことに気付くべきだったのです。あのまま、ちゃんと話し、全てを語り、想いを語り。
ま、そこで慎二を思い浮かべてしまう孝之じゃ無理なこともわかるんですが……
しかし、それをただのヘタレとは、このシナリオでは言えないです。それは彼が持っている優しさ、3年の痛みのせいで臆病になり、まだ本当の使い方を知らない、孝之の良さの片鱗だと思いたい。

そして、結局、そのことに気付かせたのは、遙の強さ。
心身ともにリハビリ中であるその状態で、それでも過去を踏まえて未来を見る強さ。「いろんな人の人生が狂っちゃったの……これは、事実なの」 そう言い切って、他人にむける優しさのために、自分自身が何をしなければいけないかをしっかり見つめて。人にどうするかではなく、自分が何をするかで優しさを実行する強さ。

水月は弱く、遙は強い。

他人に対する優しさが優柔不断になるくらいの孝之(2章の1ヶ月で本当の優しさを知ったと信じたい)と付き合って巧く行くのは、その優しさを時には振り払い、しかし理解してくれる強さを持つ女性なんじゃないでしょうか。
この点が、遙と孝之がうまく行くのでは、と思える要素になっていますね。

これは結果論になりますが、もしあの時水月と別れ話をしていたら、それは水月が「汚れたから」別れたと取られかねない……本当は、それでもいいはずなんです。ただ、水月のことを最後まで考えるなら、彼女に今後ずっと「……だったから振られた」「……していれば別れずに済んだ」などと、過去に縛り付けるような別れ方はできない。それは関係ない、彼は遙を見るために別れるのだというのは、あの時別れていれば伝えることができないままになったんじゃないかと思います。
 

遙の強さ

さて。
遙の話に戻りましょう……といっても、もう残りも少ないんですが。

遙の強さ、過去を踏まえて未来を見る強さ。それは8月27日の台詞に現れてますね。
「孝之君が生きてきたこの3年間は……孝之君に何を教えてくれましたか?」
「でもほら…………涼宮遙は……ここにいるよ」

あの手を広げ、言葉を紡ぐ彼女の姿は、彼女の強さの現れ。その強さのもっとも純粋な面を引き出せた孝之にも、このときばかりは「よくやった」と言ってやりたくなりましたね。孝之は、3年前の彼女への想いを解凍しただけじゃない。その後自分が時間という経験を積んで、その上で1ヶ月見てきた今の遙に惚れ直したんだ……そう思えた時でした。

逆にいえば、他シナリオでは「ただの解凍」に堕しているからこそ、遙の下へ行けないんでしょうが……遙の強さ、より見えてるはずなのにねェ、ヘタレ孝之君。

そしてエピローグ。
正直、遙と孝之の関係にはあまり必要のないエンディングでしたが……仲間、の点からすれば必要な話なんでしょうね。
そして、水月から遙へ、水月が決して半端な想いを向けていたんじゃないってコトが直接伝わって本当に良かったと思います。これがクリアになっていればこそ、後の再会があり得た。そうでなければ、水月は遙を誤魔化し続け、遙は水月を信じきることができなかったんじゃないかと思うのです。

「人生って面白いでしょう?」
自分の座右の銘がこんなところで出てくるとは思いませんでした。でも、まさにこの言葉こそが、このゲームの真髄だと思うのです。何があっても、例えどん底であっても、生きてさえいれば、人生は、面白い。

辛い思いをしてきた彼らに、幸あれ。
スタッフロールの最後で、思わず拍手した久しぶりの作品でした。



「……借りていた孝之の最後の1つをお返しします。
今日ここで逢えたから、もう私には必要がなくなったから……。遙、長い間、ありがとう。」

嗚呼、いつか俺にこの台詞をSSで書ける日が来るんだろうか!?(^^;;

SSを書くために設定をよーく読み返していたら……
……は、はは、3月22日……俺の、誕生日……(爆死)
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